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インスタント書感

「1記事3分間(最長1800字)で読める」をコンセプトに、主に読書感想を垂れ流すブログ

罪の余白

 

罪の余白 [Blu-ray]

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評価:★★☆☆☆

手に取ったきっかけ
今回は自分で選んだわけではないので、特に動機のようなものはありません。ただ、以前にこの映画の予告編を観たことがあり、娘を殺された父親と、その娘を死に追いやった女子生徒の駆け引き、という点において、多少、興味をそそられてはいました。

尚、この作品には原作小説がありますが、今回は映画のみの鑑賞です。

 

危なっかしくて見ていられない安藤の行動
観終わってがっかりしたのは、もっと心理的な駆け引きを期待していたのに、それが最後まで全然見られなかったこと。

 

クラスメイトの木場咲によって娘を死に追いやられた父親・安藤が、真相を本人の口から語らせようと彼女に迫るのですが、安藤の行動は、大学で心理学を教えている立場でありながら、いえ、一人の大人として見ても、あまりに思慮が浅すぎるのです。安易に咲たちを自宅という密室に呼んだり(妻はすでに他界しており、実質、男の一人暮らし)、街に出かける咲を一人で尾行したり、学校に入り込んだり。

 

放課後、咲を教室に呼び出して話をし、しかし、すげなく出て行く彼女に、「(娘が教室の手すりから落ちて亡くなったとき)何か感じなかったか? 感じただろう? 教えてくれよ」というようなことを、安藤がわざと大声で繰り返し問いかけるのですが、直後、教師に別室に呼び出されて厳重注意を受けるシーンに、私は苦笑を禁じ得ませんでした。安藤の挙動は完全に不審者のそれで、しかも学校の指導者である教師から大の大人がお叱りを受けるという画は、彼の奇行をことさらに印象づけている。私には下手なギャグにしか見えませんでした。

 

自分を追い回す安藤の行動を逆手に取った咲が、あの人は娘を失ったショックで頭がおかしくなったのだ、などと友人(という名の都合のいい道具)を使って根も葉もない噂をクラス中に吹聴するのですが、物語を第三者的視点で観ている観客としては、安藤側の理解者として、「いや、そうじゃない!」と憤るところが、「一理ある」と頷かせてしまう点で、この作品は失敗しているのではないかと思う。肩入れする相手を失った観客は、宙ぶらりんのまま物語を追わなくてはいけないのです。

 

あらかじめ暗に言い訳されていた

しかし、ロジカルとは程遠い安藤の行動には、思えば予防線が張られていたのです。

物語の序盤。彼は眼前で咲から娘共々侮辱され、怒りに任せて公然で手を上げてしまいます。通報され、自分を取り調べる刑事に、彼は言います。

「あんたには子供がいるのか? いないのなら、何を話しても無駄だ」

個人的にはこういう言い方をする人間は好かないのですが、直前の咲の暴言を目の当たりにしているだけに、この安藤の怒りや、誰にも理解してもらえないやるせなさには唯一共感を覚えることができます。

 

親なのだから、娘を殺され、その上侮辱されれば心が乱れるのは当然である。

 

でも、この主張が許されるのは上記のシーンまでだと私は思っています。それ以降は、安藤を終始場当たり的な行動に走らせるために表現者(それは監督であったり、原作者であったり)が用意した、表現者のための免罪符のように感じられました。物語上、どうしても安藤を無鉄砲にさせる必要があった、あるいは自然の流れに任せた結果そうなった、というよりも、単に表現者の力量不足でこういう話の導き方しかできなかったとしか感じられなかったのです。それについては次に記します。

 

この作品への最大の不満に対して考えたとき、「だって、作中で示唆していたでしょう?」と暗に言い訳されていたことに気が付いて、私は少し胸が悪くなりました。

 

期待していたのは……

誰にも彼にも順位付けをして、自分よりも下層の人間だと判断した瞬間から明らさまに見下した態度を取り、欠点をあげつらって挑発に及ぶ木場咲のような人間は、現実にも存在します。そういう存在に対して、安藤がどのように相手の心を挫くのか。経験を積んだ大人の底力を見せつけるような心理戦・頭脳戦を、私は期待したのです。でも、蓋を開けてみれば、そこにあったのはおじさんの稚拙な復讐劇で、まったく肩透かしを食らいました。

 

結局、咲の心は何も変わりませんでした。女子少年院送りにして、女優になるという彼女の夢は潰せたかもしれませんが、彼女の心根に致命的な一撃を与えることはついにできなかったのです。

安藤という登場人物も、彼らを生んだ表現者も、木場咲という人間を持て余したまま、苦肉の策でもって終止符を打つことでしか物語を終わらせられなかった。

 

安藤が作中で心理学の知識を中途半端にお披露目したのはなんだったのか。正直なところ、周りが言うほど頭が切れる人物とは思わなかったけれど、それでも、まだ咲のほうが子供なりに相手の心を読み、自分から自由を奪おうとする人間から逃れようと頭を働かせていた。

 

カタルシスなんて、とんでもない。

不甲斐ない大人という存在に、失望が芽生えて終わる。これは、そんな物語でした。 

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